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うつ病の治療方法

目次

うつ病における
気分の変化

憂うつで気持ちが落ち込んだり、やる気がなくなったり、悲しい、希望が持てないといった感情は抑うつ気分と言います。

家族や友人など親しい人の死や病気など、悲しい出来事はもちろんのこと、仕事のストレスや経済的な不安、場合によっては昇進や結婚、子供の独立など喜ばしい人生の転機も、環境の変化がストレスとなって抑うつ気分を引き起こすことがあります。

気分の落ち込みは誰しも一時的に感じることはありますが、うつ病では他の症状が出現します。

楽しいと感じることがなくなった。食欲が低下した。寝付きが悪く、夜中に何度も起きる。休みの日でも疲れが取れず、ずっと横になっている。思考力が低下し、頭にモヤがかかったような感覚がある。落ち着きなく、ずっとソワソワしている。些細なことで涙が出る。消えて居なくなりたい、死にたいと感じて、方法を考え始める。

上記のような症状が数週間にわたって続くようになると、単なる落ち込みではなく、うつ病の症状が出現しています。

うつ症状の程度を知るには、様々な心理検査がありますが、その一つが米国国立精神保健研究所で作られたCES-D心理検査(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)です。一週間を振り返って、それぞれの症状の程度を自己評価します。

うつ症状の程度は、点数によって推し量ることができます。点数が高いほど、うつ症状が強いと言えます。

  • ・0~15点:正常
  • ・16〜29点:軽度のうつ状態
  • ・30〜45点:中等度のうつ状態
  • ・45点以上:重度のうつ状態

うつ病の診断基準

臨床症状に基づいて、信頼性の高い診断を行うために用いられているのが、DSM-5-TRと呼ばれる米国精神医学会の診断基準です。

それでは、診断基準を見てみましょう。

以下の症状のうち、少なくとも1つある。

  • 1.抑うつ気分
  • 2.興味または喜びの喪失

さらに以下の症状をあわせて、合計5つ以上の項目が該当する。

  • 3.食欲の減退または増加、
    体重減少または増加
  • 4.不眠、または過眠
  • 5.精神運動の焦燥または制止
  • 6.疲労感、または気力の減退
  • 7.無価値感または過剰・不適切な罪責感
  • 8.思考力や集中力の減退、
    または決断困難
  • 9.死についての反復思考、自殺念慮、
    自殺企図

上記症状がほとんど1日中、ほとんど毎日、2週間にわたって存在する。

症状のために著しい苦痛または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能障害を引き起こしている。これらの症状は身体疾患や物質依存では説明できない。

つまり、うつ病と診断する上で重要な点は、次の3つです。

第1に症状が重いこと。疲労感、思考力低下、希死念慮などが出現します。
第2に期間が長いこと。2週間以上にわたって症状が続きます。
第3に社会的問題を伴うこと。仕事や日常生活が困難となります。

では、CES-D検査で「うつ状態」と判定され、症状の自覚はあるものの、DSM-5の診断基準で5項目を満たさない場合は、「うつ病」とは診断されないのでしょうか。

最近の英国の国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence :NICE)のガイドラインによれば、DSM-5の診断基準を満たさなくても、社会生活に影響が出ている場合は、程度の軽いうつ病と捉え、症状が重いうつ病と区別し、心理療法を中心とした治療が推奨されています。

うつ症状を引き起こす
身体疾患

うつ病の診断にあたっては、「症状が身体疾患では説明できない」ことが必要です。

栄養不足やホルモンの異常は、倦怠感など、うつ病に似た身体症状を引き起こす場合があります。血液検査で調べることができるため、可能性がある場合は検査が勧められます。

  • ・貯蔵鉄の不足(フェリチン低値)
  • ・ビタミンD不足(ビタミンD低値)
  • ・亜鉛(亜鉛低値)
  • ・タンパク不足(BUN低値)
  • ・甲状腺機能低下
    (T3/T4低値、TSH高値)
  • ・更年期障害
    (エストロゲン/テストステロン低値、
    FSH高値)

炭水化物中心の食生活や、タンパクやビタミン不足では、フェリチンやBUNが低下している場合があります。魚の摂取が極端に少ないと、ビタミンDや亜鉛の低下を認める場合があります。

薬やサプリメントで補うことで、数ヶ月で正常値に戻ると、症状が改善する場合があります。血液検査の詳細については別ページを参照ください。

うつ病の重症度

うつ病の治療を選択する上で、重症度の判定が大切です。うつ病の症状を、自律神経の乱れ、気分の変化、倦怠感、思考力の低下に分けると、次のような項目に該当する場合は、症状が重く、早急に治療が必要です。

  • ・嘔気、呼吸苦、胸痛、眩暈などが強く、通勤に支障が生じている
  • ・希死念慮が強く、自殺企図を認める
  • ・活動性の低下が顕著であり、倦怠感が強く、欠勤が増えている
  • ・思考力が顕著に低下し、業務の遂行に支障が生じている

反対に、落ち込みを自覚し、やる気が湧かないものの、体の異常は自覚なく、出勤できており、仕事の効率は変わらない場合は、症状は軽度と言えます。ストレスを軽減するような環境調整が優先されます。

うつ病の発症メカニズム

うつ病を引き起こす特定の遺伝子変異は見つかっておりませんが、うつ病と関連する遺伝子領域としてセロトニントランスポーターSLC6A4などが知られています。また、一卵性双生児において一人が発症した場合の一致率は30~40%と、一般的なうつ病の生涯有病率6〜7%よりも高く、遺伝的要因の寄与は否定されておりません。遺伝的素因と環境要因の両者が関与すると考えられています。

環境要因として心理的ストレスが引き金になります。仕事においては失業、退職、転職、仕事上の変化、上司とのトラブルなどが挙げられます。プライベートでは、配偶者の死去、離婚、別居、近親者の死去、配偶者への忍従、病気、借金などが挙げられます。結婚、妊娠など喜ばしいイベントも場合によってはストレスとなり得ます。

ストレスがうつ病を引き起こすメカニズムとして、次のような異常が関わっています。

自律神経の乱れ

ストレスが繰り返されると、脳の不安中枢である扁桃体が活性化します。その結果、視床下部(Hypothalamus)や下垂体(Pituitary)を介して、副腎(Adrenal gland)からストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が起こります。この一連の流れは、英語の頭文字をつなげてHPA経路と言われます。

ストレスが一時的であれば、コルチゾールはすぐに元に戻りますが、ストレスが慢性化すると、コルチゾールが常に高い状態となります。その結果、眠りが浅くなり、血圧や脈拍が上昇し、消化性潰瘍が起きる場合や、発熱を伴う場合もあります。

自律神経の乱れも起こります。扁桃体の活性は脳幹の青斑核を介して交感神経を活性化し、パニック発作で認めるような、動悸、胸の痛み、喉のつまり、息苦しさ、体の震え、吐き気、熱感、しびれなどを引き起こします。

神経伝達物質の乱れ

コルチゾールの増加は、脳の炎症細胞を活性化し、炎症物質や活性酸素の放出を促します。脳の炎症は、トリプトファン代謝に影響を与えて、セロトニン産生を低下させるなど、脳内の神経伝達物質の異常につながります。神経伝達物質のバランスが乱れると、心理状態に変化が起こります。

気分に関与する3つの主要な神経伝達物質が、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンです。セロトニンはリラックスした感情と結びつき、不安を抑えます。ノルアドレナリンは、気力や活力に関与します。ドーパミンは、意欲や喜び、充実感に関わります。

セロトニンが不足すると、不安が強く、落ち着かず、そわそわした焦燥感が起こります。ノルアドレナリンが不足すると、体が重くて起き上がれない、倦怠感が強く、無気力となります。ドーパミンが不足すると、楽しさを感じられず、虚無感や絶望感が強まります。

これらの3つのホルモンを、光の三原色になぞらえて、心の三原色として模式化した図が用いられます。3つのホルモンがバランスよく働いていることで、気分の状態が正常に保たれます。

脳のネットワークの異常

うつ病になると、外部の物事に集中することが難しくなり、グルグルと否定的な内省や反芻思考が続きます。このような状態には、脳のネットワークの変化が関係しています。外部に注意を向けて、タスクを効率的に行っている時や、集中している時には、セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)が働いています。

一方、うつ病では、自身の内面に意識を向けるディフォルトモードネットワーク(DMN)が活性化しやすい状態となります。脳が同じ否定的なテーマに注意を引き付けて、通常なら楽しめる活動への興味や喜びの喪失を引き起こします。

CENの活性低下は、頭にモヤがかかったようなブレインフォグの症状など、認知機能や思考力の低下として実感される場合もあります。

うつ病の経過

うつ病は、発症してから、正常な気分の状態に回復するまでが1回のエピソードと数えられます。
うつ症状が重い状態は、急性期の治療が必要な状態です。症状が良くなり始めてかから、心理検査で50%改善した時点が「反応」と呼ばれます。

症状がほとんどなくなった状態が「寛解」と呼ばれます。8週間、寛解の状態が続くと、「回復」と呼ばれます。

反応から回復までの期間は、症状は不安定であり、良くなったり悪くなったりを繰り返し、「回復期」と呼ばれます。症状が悪化する危険があり、うつ病の「再燃」と呼ばれます。

回復に至ったあとで、再び症状が出現した場合、うつ病の「再発」と言われます。うつ病エピソードの再発を繰り返す場合、反復性のうつ病と呼ばれます。再発を繰り返すと、症状が重症化する傾向にあります。

症状が軽度で、特段の治療を必要とせず、療養してすぐに活動性が回復する場合、2〜3ヶ月で「寛解」に至る場合があります。

一方、症状が重く、療養を始めると横になって過ごす時間が増えるような場合は、「反応」して症状の改善を実感できるまでに3ヶ月位かかり、「寛解」に至るまでに半年から1年ほどかかる場合もあります。

うつ病と類似疾患
との違い

うつ病の他にも、抑うつ症状を示す疾患があります。

ストレスによって起こるストレス因関連障害の一つである適応障害、他には、気分障害に含まれる双極性障害や気分変調症、非定型うつ病も抑うつ症状を認めます。疾患によって症状が異なります。

うつ病と適応障害の違い

うつ病では、「抑うつ症状」が症状の中心です。
一方、適応障害は、ストレス因によって、就労など社会生活に支障が出た状態です。症状は、抑うつ症状に限らず、不安症状が強い場合や自律神経失調症状が中心の場合まで多岐にわたります。

診断基準として以下のような項目が挙げられます。

  • ・はっきりと確認できるストレス因に
    反応して、その始まりから3ヶ月以内に
    情動または行動面の症状が出現する。
  • ・症状は、ストレス因に相応な程度を
    超える苦痛を伴う、または社会的・
    職業的な機能障害を引き起こしている。
  • ・ストレス因やその結果が終結すると、
    それ以降に症状が6ヶ月以上続くことは
    ない。

適応障害は、ストレス因から離れて一定期間が経過すると症状が改善することで、診断がはっきりします。適応障害の治療では環境調整を優先し、ストレス因を取り除くことが大切です。

ストレス因がきっかけであっても、結果的にうつ病の診断基準を満たす状態になると、ストレス因から離れても症状が続く場合があります。
このような場合は、うつ病として治療が必要です。

うつ病と双極性障害の違い

うつ病は、症状が寛解して回復すると、その後再発することなく治癒する場合も多い疾患です。
一方、双極性障害は、うつ状態と躁状態を繰り返す経緯が特徴です。症状を治すことだけでなく、予防することも大切です。

背景には脳のカルシウム代謝などの異常が存在すると考えられています。抑うつ症状を発症した時点では、うつ病か双極性障害か区別がつかない場合が多く、その後の経過が両者の鑑別に大切です。

双極性障害に特徴的な症状として、躁状態が挙げられます。
何でもできるような万能感、目標に向かった活動性の増加、睡眠時間が短くても活動できる状態、アイデアが次々に湧いてくる感じ、衝動的にお金を使いすぎる浪費行動などが挙げられます。

双極性障害の場合は、気分を安定した状態に保つ目的での薬物療法が勧められます。

うつ病と気分変調症の違い

うつ病では、症状が改善すると気分が正常な状態に戻るのに対して、気分変調症の場合、程度は軽いものの、抑うつ症状が数年単位で長期間にわたって続きます。

診断基準として次のような項目が挙げられます。

  • ・抑うつ気分がほぼ1日中存在し、
    症状がある日の方が多い状態が2年以上
    続いている。
  • ・抑うつ症状として、
    次の2つ以上が存在する
    (食欲変化、睡眠障害、意欲低下や
    倦怠感、自尊心低下、集中力低下、
    絶望感)。
  • ・2ヶ月以上症状がなかった期間がない。
  • ・症状は、臨床的に著しい苦痛、
    または社会的・職業的な障害を引き起こしている。

気分変調症の治療では、内在的な抑うつ気分そのものを直していくことが必要です。抗うつ薬で効果を認めにくい場合も多く、慢性化した症状に焦点をあてて対症療法として薬剤を使います。

抑うつ気分の背後に否定的な思考パターンがあることが多く、心理療法を行いながら、症状の維持に関与する回避、反芻、対人関係の困難さ等に対処する行動様式の獲得が目標になります。

うつ病と非定型うつ病の違い

うつ病では、「興味または喜びの喪失」を認める場合が多く、楽しい刺激があったからといって、気分が良くなることはほとんどありません。

一方で、気分は落ち込んでいるものの、楽しい出来事があると気分が明るくなるという「気分の反応性」を認める場合があります。この場合、非定型うつ病の可能性があります。

非定型うつ病の場合、「気分の反応性」に加えて、次の4項目のうち2項目以上が当てはまります。

  • ・手足が鉛のように重く感じられる
  • ・過眠
  • ・他者の拒絶的言動に対する過敏
  • ・食欲、体重の増加

非定型うつ病の場合、対人関係で無視や軽視されている感覚、また社会的に拒絶されているという自意識が強くなることが、症状が悪化するきっかけになる場合が多いようです。

治療は心理療法に加えて、うつ病に準じた薬物療法が勧められます。

うつ病の治療の選択肢

うつ病の治療は、次の4つが基本となります。

  • ・環境調整
  • ・療養
  • ・心理療法
  • ・薬物治療

治療の選択はうつ病の重症度に応じて決められます。

症状が軽い場合は、環境調整や心理療法により、ある程度の症状の改善が期待できます。

一方、症状が重い場合は、療養や薬物療法を積極的に検討することが勧められます。
症状が重いことを示す具体的な症状として、活動性や思考力の顕著な低下、希死念慮や自殺企図、就労に支障がでていることなどが挙げられます。

うつ病の発症の引き金となったストレス因を除く環境調整を行います。
症状が重い場合は、しっかりと療養できる環境を整えます。
心理療法により、ストレス因がうつ病につながった背景の理解を深めます。
認知や行動パターンを振り返り、対人関係の在り方を見直します。薬物療法により、乱れているドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンのバランスを整えます。

療養中は、急性期はしっかりと休息をとり、回復期には行動を活性化していきます。
これらの治療によりうつ病を治し、再発を予防していきます。

環境調整

うつ病の発症には、仕事やプライベートでのストレスが関与している場合が多く、ストレス要因を把握して、その軽減を図ることが大切です。

職場でのストレスによりうつ病を発症した場合、労務量、業務適性、人間関係などのストレス因を見直すことが大切です。残業制限、労務内容の変更など、就労上の措置が行われる場合があります。

環境調整を行い、必要に応じて薬物療法を並行して、症状を緩和しながら就労を続けるか。あるいは療養して症状の改善に専念するか。
症状の程度に応じて柔軟な判断が必要になります。

症状が軽度の場合

症状が軽度の場合は、環境調整を行い、必要に応じて薬物療法を併用することで、就労しながら症状の改善を図ることができる場合があります。

ただし、うつ病では脳機能や自律神経に異常が生じています。環境調整によりストレス因が軽減されても、すぐに症状がなくなるわけではありません。

適切に療養して、心身を正常な状態に戻すことを優先した方が良い場合もあります。症状が軽い場合、数ヶ月程度の短期間の療養で寛解に至る場合があります。

症状が中等度の場合

症状が中等度の場合は、就労を継続するか療養するか、判断が難しい場合があります。

意欲がわかず、週末は横になって過ごしているなど、症状の自覚はあるものの、欠勤なく就労できている場合には、環境調整や薬物治療を行いながら就労を続ける選択肢があります。

徐々に症状が改善する場合もあれば、環境調整を試みるものの症状が増悪し、療養が必要になる場合もあります。定期的に通院して、症状について医師と相談しながら方針を決めることが大切です。

症状が重度の場合

症状が重度で、短期間の間に遅刻や欠勤が繰り返されているなど、就労に支障が出ている場合は、早急に病院を受診し、診断書を提出し、療養を開始することが勧められます。

環境調整だけでは就労を継続できる可能性が低いため、しっかりと症状を改善した上で復職を目指すことが大切です。

療養

うつ病の治療のために療養する場合、気分の状態、自律神経、活動性、思考力・集中力を回復することが目標になります。

睡眠改善

うつ病では自律神経が乱れていることが多く、交感神経が活性化してノルアドレナリンが分泌され、ストレスホルモンであるコルチゾールが高い状態になっています。眠りが浅くなりがちです。
リラックスして副交感神経が優位な状態を作るために、急性期には十分な睡眠をとり、休息することが大切です。

回復期にさしかかると、生活リズムを整える段階になります。睡眠ホルモンであるメラトニンの日内リズムは、光刺激と食事によって調節されています。朝の光を浴び、朝食を食べることでリズムが整っていきます。
最近はスマートウォッチで簡単に睡眠の状態が計測できます。睡眠時間や睡眠の質を把握することが勧められます。

食生活の調整

療養中は、食生活が偏りがちです。
セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンが作られるように、十分なタンパク摂取が大切です。
エイコサペンタエン酸(EPA)、亜鉛、ビタミンDの低下は、うつ症状との関連性が認められています。疲労感が強い時は、鉄(フェリチン)やビタミンB群が不足している可能性があります。

腸脳相関として、腸と脳の状態が互いに影響し合うことが分かってきています。
過敏性腸症候群など、腸の炎症は脳に伝わり、うつ症状のリスクを高めます。腸の調子を整えるには、低FODMAP食の摂取や、整腸剤や乳酸菌等を含むヨーグルトなどを摂取することで腸内細菌を整えることも効果的です。

運動

睡眠が安定してくると、次は活動を増やす回復期に入ります。
この時期は、倦怠感が続く中で、体を動かす活動を習慣づけることが大切です。
散歩、外出、ストレッチ、運動など習慣にしやすい活動がお勧めです。週3回以上、30分以上の運動を行うことで、うつ病の予防や改善効果が示されています。

うつ病では、慢性ストレスによりコルチゾールが高くなる一方で、日内変動が乱れ、朝にコルチゾールが上昇せずに、倦怠感の原因となります。
運動することで一過性にコルチゾールが高まり、基礎レベルのコルチゾールを抑えます。運動はコルチゾールの日内変動を整えるだけでなく、体がうまく使えている実感により、自己評価や自尊心を高めます。

社会とのつながり

家族や友人との交流から感情面のサポートが得られると、ストレスへの抵抗性が高まります。
共感を持って話を聴いてくれる、大切に思われている、受け入れてくれる、自分が価値ある存在だと感じられる相手の存在は助けになります。

実際に得ることができるサポートに加え、うつ病の改善には、主観的に感じられるサポートも重要です。
大切にされていると感じられる、サポートが得られていると感じられる主観的な実感は、気分の改善につながります。
一人では内省が起こりがちですが、社会とのつながりを持つことで、前向きな姿勢や実行力が回復していきます。

心理療法

心理療法は、うつ病の発症に至った心理的側面の理解を深め、回復期の症状回復を促します。
医師との診察、心理カウンセラーとの面談、グループ療法等により実施する場合が一般的です。
一対一で十分な時間を作りたい場合は、心理カウンセリングが勧められます。
リワークに通所している場合は、グループ療法を行うこともできます。

心理療法には、以下のようなアプローチが用いられます。

問題解決

発症につながったストレス要因を理解し、その解決に焦点を当てたスキルや対策を構築します。自身でストレス因を把握し、対策を言葉にできることが目標です。

仕事のストレスが関与する場合、次のような要因を振り返ることが大切です。

  • ・性格要因
    (コミュニケーション、ストレス耐性、
    性格タイプ)
  • ・働き方(仕事量、睡眠時間、仕事の
    コントロールのしやすさ、異動、通勤)
  • ・業務(適性、トラブル、目標による
    プレッシャー、勤務形態)
  • ・プライベート
    (ライフイベント、喪失)
  • ・環境(ハラスメント、上司や同僚の
    サポート、上司との相性、部下との
    関係)

行動活性化療法

うつ病の急性期には倦怠感が強い場合が多く、十分な休息が必要です。
一方、回復期に入ると、休息を続けるだけでは症状の改善が頭打ちになる場合があります。

朝起きた時、倦怠感や気分の落ち込みを自覚すると、「とにかく寝たい」「ゆっくり過ごせば回復するかも」と考えて、横になって1日過ごすこともあるでしょう。
結果、動かないので体は楽ですが、毎朝同じことが繰り返されると、いつになったら回復するのかと悲観的思考が強くなる場合があります。

対策は、億劫に感じるものの、あえて活動に取り組んでみることです。結果、体の疲れはあるものの、爽快感や充実感を感じることもあるでしょう。
うまくいかず疲れるだけの場合もありますが、活動を避けて過ごす以上に状態が改善する可能性があります。

気分は乗らないとしても、あえて色々試してみることが大切です。
自分に出来そうで充実感を感じられる行動を見つけ、無理のない範囲で習慣にするとよいでしょう。

具体的には下のような活動が挙げられます。

  • ・運動(ウォーキング、散歩、
    サイクリング、ジョギング、ストレッチ
    など)
  • ・家事(片付け、掃除、料理、コーヒーを
    淹れる、植物の水やり、動物の世話など)
  • ・外出(買い物、喫茶店、友人と会う、
    趣味の活動、サウナや銭湯、神社巡り
    など)
  • ・集中(読書、漫画、ドラマ、映画、
    イラスト、工作など)

認知行動療法

うつ病の背景にある、考え方、感情、行動様式の理解を深めます。
これまでの生き方から身についたものであり、簡単には変わりませんが、否定的な思考パターン、変えたいと思う行動パターンに向き合いたい場合に有効です。

特定の「出来事」のパターンで起こりやすい辛い「感情」に焦点を当てて、その背景にある「自動思考」に気づきます。
自動思考を支える「根拠」を振り返り、意識的に「反証」を見出すことで、新しい「適応的な思考」を獲得します。
その結果、意識的に「感情」を和らげる対処法を身につけていきます。

一人で行うことは難しいため、定期的にカウンセリングを行いながら進めることが勧められます。

対人関係療法

気分や認知そのものに焦点を当てず、対人関係の問題に焦点を当てます。夫婦関係、職場での上司部下の関係、親子関係など、対人関係でストレスを感じている際に有効です。

対人関係療法で重視されるのは「役割期待」の不一致です。
相手が期待外れの行動をする時や、やらないで欲しいことをされた時にイライラする背景には、自分の相手への期待と、相手が自分に期待する役割のズレが存在する場合が多くあります。

自分が相手に対して抱いている「役割期待」に気づき、相手が抱いている「役割期待」を理解します。怒りという感情的反応を回避し、沈黙によりコミュニケーションを打ち切るわけでもなく、役割期待のすり合わせを図ります。
カウンセラーを交えて行う夫婦カウンセリングも有効です。

抗うつ薬の種類

抗うつ薬は大きく分けて次のように分類されます。

種類 先発品 主成分
SSRI ジェイゾロフト セルトラリン
レクサプロ エスシタロプラム
パキシル パロキセチン
デプロメール フルボキサミン
S-RIM トリンテリックス ボルチオキセチン
SNRI サインバルタ デュロキセチン
イフェクサー ベンラファキシン
トレドミン ミルナシプラン
NaSSA リフレックス ミルタザピン
三環系 ノリトレン ノリトリプチン
トリプタノール アミトリプチン
アナフラニール クロミプラミン
トフラニール イミプラミン
四環系 レスリン トラゾドン
ルジオミール マプロチリン

SSRIは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)と呼ばれます。シナプスでのセロトニン・トランスポーターによる再取り込みを阻害することで、セロトニンの量を高め、セロトニンの作用を促進します。

S-RIMは、セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬(Serotonin Reuptake Inhibitor and serotonin Modulator)と呼ばれます。SSRIと同様にセロトニン再取り込みを阻害してセロトニンの作用を高めることに加え、5-HT受容体というセロトニン受容体を調節することで、間接的にノルアドレナリンやドーパミン、アセチルコリン、ヒスタミンなどの遊離を引き起こし、作用を高めると考えられます。

SNRIは、選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Selective serotonin and Norepinephrine Reuptake Inhibitor)と呼ばれます。セロトニン・トランスポーターに加え、ノルアドレナリン・トランスポーターによる再取り込みを阻害することで、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリンの働きを高める作用もあります。
SNRIの中でイフェクサーは、少量で服用するとSSRIに似てセロトニンへの作用が中心となります。服用量を増やすとノルアドレナリンへの効果が実感できるようになります。治療する症状に応じて服用量を変える必要があります。

NaSSAは、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(Noradrenergic and Selective Serotonergic Antidepressant)と呼ばれます。ノルアドレナリン分泌細胞やセロトニン分泌細胞に働きかけて、ノルアドレナリンとセロトニンの遊離を促し、活性を高めます。

三環系・四環系抗うつ薬は、化学構造的に3つまたは4つの環をもっています。日本で最初に発売されたのは1960年頃であり、日本でSSRIが初めて発売された1999年に比べて、長い歴史を持ちます。セロトニンの再取り込み阻害やノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持ち、セロトニンとノルアドレナリンの両方の効果を高めます。他にもヒスタミン受容体を阻害して眠気を引き起こし、ムスカリン受容体を阻害して口渇感や便秘が起こる場合があります。

セロトニンの減少は不安感や憂うつ感につながり、ノルアドレナリンの減少は気力や活力の低下を引き起こします。不安や憂うつ感を軽減したい場合は、セロトニンが増加するような薬剤を、気力や活力を高めたい場合は、ノルアドレナリンが増加するような薬剤を選択することが勧められます。

抗うつ薬の効果に必要な期間

抗うつ薬は、服用を開始してすぐに効果が出るわけではありません。効果が出る場合は、2週間で半数程度の方で効果が感じられ、4週間で8割程度の方が効果を感じられると言われます。

副作用で服用できない場合を除き、4週位までは同じ薬を続けてみることが大切です。8週間治療を受けることで、5割以上の方で症状の改善が認められると言われています。

治療に時間がかかる理由は、服用開始して、脳内の神経伝達物質の量の変化自体は数日間で起こっているものの、脳のネットワークレベルで状態が改善するには、4〜8週間の期間が必要だと考えられているためです。

抗うつ薬の副作用

抗うつ薬の種類に応じて副作用が異なります。

  頻度の多い副作用
SSRI 吐き気、眠気
SRIM 吐き気、眠気
SNRI 動悸、眠気
NaSSA 眠気、食欲増加
三環系 眠気、口渇、便秘
四環系 眠気、口渇、便秘

副作用は必ず起きるわけではなく、個人差があります。副作用を感じることなく服用できる方もいれば、副作用で中止になる場合もあります。

吐き気はSSRIやSRIMで起こる場合が多いですが、服用開始時のみ吐き気止めを併用することで、副作用なく服用できる場合も多いです。

眠気は、抗うつ薬全般に起こる可能性があります。全く眠気を感じることなく服用できる方も多いですが、日中の倦怠感が強い時や、日中の眠気で仕事に支障が出る場合には、服用を中止することが勧められます。

食欲増加は個人差がありますが、食欲の変化を実感した場合は速やかに中止することで体重増加を防ぐことが大切です。
NaSSAでは食欲増加が起こることが多く、三環系抗うつ薬も服用量が増加すると食欲が増す場合があります。
SSRIの中でもパキシルやレクサプロは頻度が少ないものの代謝の抑制により体重増加が起こる場合があります。

SSRIにより、性機能障害の副作用が出る場合があります。
副作用が出た場合は、SSRIの種類を変えることや、SRIMに変更することで副作用の改善が期待できます。

アセチルコリンの作用を阻害する抗コリン作用により、便秘、口渇感、排尿障害などの副作用が出現する場合があります。
三環系抗うつ薬の服用量が増えると症状が出現することが多く、SNRIやNaSSAでも頻度が少ないものの症状を認める場合があります。

抗うつ薬の増強療法

抗うつ薬が主なターゲットとするのが、セロトニンとノルアドレナリンです。
しかし、うつ病の方では、ドーパミンの異常を疑わせる症状を合併する場合も多く認めます。

ネガティブな反芻思考、過去の辛い体験のフラッシュバック、絶望感や虚無感、希死念慮などが強い時は、ドーパミンのレベルを調整することが大切です。

ドーパミンを調節する薬剤は、非定型抗精神病薬に分類され、うつ病の増強療法として、抗うつ薬に併用して用いられます。

商品名 成分名 効果
エビリファイ アリピプラゾール 意欲改善、
反芻思考の軽減
レキサルティ ブレクスプピラゾール 反芻思考の軽減、
希死念慮の軽減
セロクエル クエチアピン 落ち込み軽減、
睡眠促進
ジプレキサ オランザピン 落ち込み軽減、
睡眠促進
ラツーダ ルラシドン 落ち込み軽減、
反芻思考の軽減

エビリファイやレキサルティは、ドーパミン受容体への部分作動薬として作用し、ドーパミンレベルが強すぎる時は活性を抑え、弱い時には活性を補う役割を果たします。ドーパミンの活性を適切なレベルに調整する働きを持ちます。

副作用として、座ったままでじっとしていられず、ソワソワと動き回る症状(アカシジア)が出ることがあります。
アカシジアを認めた場合は服用の中止が勧められますが、服用が必要な場合は、副作用を抑える薬剤としてアキネトン(主成分:ビペリデン)やアーテン(主成分:トリヘキシフェニジル)を併用します。

他にレキサルティで眠気が生じる場合や、エビリファイで不眠が生じる場合があります。レキサルティを増量した場合、頻度は低いものの食欲が増加する場合があります。

クエチアピン、オランザピンはドーパミン受容体への緩やかな拮抗効果を持ちます。抗ヒスタミン作用を併せ持ち、眠気を引き起こすため、夜になるにつれて気持ちが高ぶり、睡眠障害を伴う場合に有効です。オランザピンとクエチアピンは代謝に影響が出る場合があり、糖尿病の方は服用できません。

ラツーダもドーパミン受容体への拮抗作用をもち、現時点で双極性障害や統合失調症に適応が認められている薬剤ですが、海外の臨床研究において、抗うつ薬の増強療法として治療効果の報告があります。

TMS治療

近年、TMS(経頭蓋磁気刺激:Transcranial magnetic stimulation)をうつ病の治療目的で実施できる医療機関が増えてきました。日本で保険診療としてTMS治療を受けるには、薬物治療で効果が不十分であった方が、入院して治療を受ける必要があります。
一方、自由診療では、一般のクリニックで通院治療にて実施可能です。

TMS治療の目的は、うつ病で活性が低下している左側の背外側前頭前野(DLPFC: dorsolateral prefrontal cortex)の活性を高め、活性が亢進している右側のDLPFCの活性を抑えることです。

結果的に、うつ病の状態で強まっている自己内省、反芻思考の原因であるディフォルトモードネットワーク(DMN)を抑え、外界に注意を向けるセントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)の活性を高めていきます。

当院でも、複数のTMSプランを提供しております。

※横にスクロールできます。

  時間
(左)
時間
(右)
パルス
(左)
パルス
(右)
モード
(左)
モード
(右)
Aプラン 6分40秒 0分 1200 0 iTBS なし
B1プラン 10分 40秒 1800 1200 iTBS cTBS
B2プラン 13分 80秒 2400 600 iTBS cTBS
B3プラン 0分 20分 0 1200 なし 1Hz

 

iTBSは、間欠的シータバースト法(intermittent Theta Burst Stimulation)を意味し、神経ネットワークのつながりを強化します。一方、cTBSは、連続的シータバースト法(continuous Theta Burst Stimulation)を意味し、神経ネットワークのつながりを弱めます。1Hzの低周波での刺激は、刺激部位において広範囲に神経活性を抑えると言われています。

TMS治療により効果を実感できる場合では、5~6回までに情動面の変化(涙もろい、悲しみが強いなど)が緩和し、自責思考やネガティブな内省、反芻思考が軽減する場合が多いようです。その場合は、20回程度を目安に治療を継続することで、症状のさらなる改善が見込めます。

TMS治療についての詳細は別のページも参照ください。

その他の治療

薬物療法やTMS治療を行っても症状の改善を認めない場合、低濃度ケタミンの静脈注射や電気けいれん療法(ECT)が治療選択肢の候補にあがります。
これらの治療は、当院では実施しておりません。

低用量ケタミン点滴静脈注射

近年、海外で、低容量ケタミンの点滴静脈注射が、うつ病に即効性の効果があることが報告されています。麻酔薬であるケタミンの抗うつ作用は1970年代から報告されていましたが、2000年代に入ってうつ病の治療効果が、プラセボとの比較から実証されました。ケタミンの抗うつ効果は、NMDA受容体の阻害作用に加え、脳の炎症を抑える働きが関与していると考えられています。

低用量ケタミンの点滴静脈注射を行った場合、効果は通常、数時間以内に実感され、個人差はあるものの、24時間以内には7割程の方が効果を感じると言われています。また、5割以上の方で一週間ほど効果が続き、特に希死念慮に有効です。

ケタミンは麻酔薬のため、点滴静脈注射を行う場合、麻酔科医による管理が必要です。一般の精神科や心療内科クリニックでは静脈麻酔を実施する医療体制は整っていない場合が多く、日本では、麻酔科医が所属する一部の医療機関で、自由診療において実施されています。

米国では、S-ケタミンの鼻腔内スプレー (商品名:スプラバート)により、治療抵抗性うつ病の方への効果が示されており、抗うつ薬の補助療法として認められています(日本では未承認)。今後、ケタミンの鼻腔内スプレー等、安全な投与法の確立が課題です。

電気けいれん療法

電気けいれん療法(ECT: Electro Convulsive Therapy)は、頭部を電気で刺激することで、脳のけいれんを誘発します。希死念慮が強く、自殺の危険が高い場合や、薬物療法に抵抗性の方に検討されます。

8割程度の方で症状改善を認めるなど、効果は高いものの、入院した上で全身麻酔を伴う処置が必要であり、ECTによる事故の危険性がゼロではないため、治療の必要性については、慎重に判断することが必要です。治療後に一過性に記憶力の障害が起こるなど、認知機能への影響が起こる場合があります。

うつ病の治療経過

うつ病の治療では、症状が重い方では、環境調整や療養を基本に、薬物療法やTMS治療が必要となります。治療経過はいくつかのパターンに別れます。

1つ目のパターン(経過1)は、比較的反応が良く、最初に始めた治療で症状が改善します。治療に反応し、寛解まで回復していきます。

抗うつ薬を使う場合、単剤から開始し、適量まで増量します。抗うつ薬を行わずにTMS治療を実施する場合もあります。増強療法は必ずしも必要ありません。不眠や不安を併発している場合は、適宜、睡眠薬や抗不安薬を併用します。このようなパターンで寛解する方は4割程度と言われています。

2つ目のパターン(経過2)は、最初の治療で反応せず、治療を修正する必要がある場合です。

最初の抗うつ薬を4週間使っても反応がない場合は、他の抗うつ薬への変更することや、役割が違う抗うつ薬の併用を検討します。増強療法も積極的に検討します。薬物療法にTMSを組み合わせることも可能です。これらの治療により寛解に至る方が5割程度です。
上記の治療でも反応しない場合は、治療抵抗性のうつ病です。治療抵抗性となるのは、1割程度と言われています。

薬物療法は引き続き修正を続けるものの、効果が認められず、希死念慮が強い場合などは、その他の治療法を検討する必要があります。電気けいれん療法(ECT)やケタミンの点滴静注も選択肢となります。
症状増悪時は入院を検討しながら、症状の改善を探っていきます。症状は遷延し、長期的な経過となります。

治療経過に影響を与える要因

症状が重く薬物療法が必要となる場合、うつ症状の改善につながりやすい背景要因として下記が挙げられています。

  • 1.薬物療法の未治療の期間が短い
  • 2.薬物療法を開始して短期間で症状の
    改善を認める
  • 3.仕事の生産性における改善を
    早期に認める

逆に、治療が効きにくい要因として、下記のような要因が挙げられています。

  • 1.活動性など生活の質が低く、症状が
    長期化している
  • 2.社会不安障害、不安障害、PTSD、
    強迫性障害、パーソナリティ障害を
    合併している
  • 3.疼痛、心臓疾患、神経疾患など、
    身体症状を合併している
  • 4.人生におけるストレスが大きな出来事が
    存在する
  • 5.幼少期の虐待が存在する
    (身体的・精神的暴力、無関心)

うつ病を発症した場合は、未治療の状態で症状が長期化すると治りにくくなるため、なるべく早期に病院を受診し、できるだけ早く治療に反応する状態を目指すことが勧められます。

うつ病の回復まで

うつ病の治療では、急性期と回復期で、それぞれ必要とされる治療が異なります。

急性期には、十分な休息を取ることが大切です。

うつ病の症状を大まかな分類として、落ち込み、倦怠感、思考力低下、自律神経の乱れに分けると、療養を開始して、比較的すぐに回復しやすい症状は、自律神経の乱れでしょう。

十分な睡眠を取ることで、緊張状態が緩和し、交感神経の活性化に由来する症状が軽減します。

他に、勝手に涙が出るといった情緒の不安定性は、ストレス因から離れて療養することで落ち着きやすいようです。一方、漠然とした落ち込み感や自責感情に由来する希死念慮は、一進一退する場合が多いようです。

回復期に至ると、やる気が湧かず、体がだるいといった倦怠感や意欲低下が強く実感されるようになります。

この時期は、行動活性化により活動性を高めていくことが大切です。落ち込み、倦怠感があると、億劫さから横になりがちですが、風邪で寝て過ごす場合と違い、一日休んだとしても、翌日にスッキリするわけではありません。

散歩、運動、家事、掃除、料理、買い物、外出など行動し、疲れが出たとしても、気持ちが変化することを実感できる行動があれば、習慣化することが大切です。
薬物療法では倦怠感への効果が期待しづらい場合もあり、活動の習慣化が大切です。

思考力や集中力の低下は、個人差がありますが、発症時の症状が強い場合は、回復まで時間がかかる場合があります。映画やドラマを観る、本や漫画を読むなど、30分から1時間ほど何かに集中して取り組む時間を習慣化することが大切です。

療養が長期化して、自身で行動を習慣化することが難しい場合はリワークへの通所が勧められます。

再発の予防

症状が寛解し、治癒に至った場合、再発の予防が大切です。再発のリスク因子は次のような要因が挙げられます。

  • ・うつ病を繰り返している、または直近の
    2年以内にうつ病を繰り返した経緯が
    存在する
  • ・症状が一部残っている。以前の治療で、
    完全に回復していない
  • ・対人関係におけるストレスへの対処に
    あたり、回避行動や反芻思考が続いて
    おり、対処法が確立していない
  • ・うつ病の発症につながった環境ストレス
    が解消されていない(人間関係の問題、
    経済的問題、孤独、失業など)

再発を防ぐためには、まず症状を完全に治すことです。薬物療法を行っている場合は、症状が安定していることを確認しながら焦らずに減薬を進めるのが良いでしょう。
ストレスへの対処法を習得するために、定期的にカウンセリングを続けることも有効です。

ストレスにより、うつ病を発症した時のような初期症状を自覚する場合があります。気分の落ち込み、不安感、不眠などを感じた時は、症状が軽い段階でも早めに病院を受診し、再発する前に先手を打って対処することが大切です。